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2018年03月20日

eSRU第13期第3講

eシルクロード大学(eSRU)第13期第3講は
2018年3月15日(木)18:00〜19:40、
講師に(株)共同文化社編集者長江ひろみ氏を
お迎えして「本を出版するという事」のテーマで
お話を伺いました。場所はいつもの
ユビキタス協創広場 U-cala でした。

 お話は長江さんが現在の職場に勤めるようになった経緯の自己紹介から始まりました。福祉関係の仕事をしていて、そこで習得した手話が生かせる職場であったのも転職のきっかけで、現在も共同文化社の親会社のアイワードの朝礼等で、障がい者の社員に手話通訳をしています。

 まず本の流通の仕組みのお話がありました。他の商品とは異なり、本は預かり販売(委託販売)で書店の棚に並べられ、売れた分だけ支払いが行われ、残りは返本となる仕組みです。このため利幅が薄くても商売になり、委託販売であるがゆえに多様な書籍を店頭に並べることができます。ただ、流通段階での取次は、書籍が売れなければ輸送コストだけが負担となり、現在多くの取次がその収益の悪化に苦しんでいます。出版市場は1996年をピークに下がり続けていて、ピーク時は2兆5千億円規模だったものが、2017年は1兆3700億円と推定されています。電子書籍は意外とまだ紙を席捲するほどではないそうです。

 本の商品としてのもう一つの特殊性は基本的に定価販売であるという点です。どの地域で、どの書店で買っても同じという事です。スーパーに置かれた品物のように「特売があるからあの店で買おう」ではない事です。ただ、市場は間違いなく縮小傾向にあります。書店の規模では3000坪という昨年オープンした蔦屋書店仙台泉店があります。札幌で売り場面積が今一番大きいのはコーチャンフォー新川通り店で2950坪、全国2位です。丸善ジュンク堂は1800坪、紀伊国屋書店札幌本店は1200坪となっています。

 本の出版商社は取次ともいわれます。トーハンと日販が最大手、次に大阪屋と続き、その外は規模が非常に小さいです。売り上げの7〜8割を占めていた雑誌が今売れないので取次も書店も経営が苦しく、地方の書店には本が届きにくくなっています。この業界では返本率の高さが最大の問題点といえます。

 ではどんな本が売れるかのお話をします。流行で一気に売って短命に終わる本よりは、年月を経ても価値が変わらない本が売れます。例としては、「頭の体操」は1966年に刊行された第1集が250万部という大ヒットでシリーズ化され、22集まで発売、その後BEST,セレクションなど精選集が刊行されました。シリーズ累計1200万部になります。

 話題になるのが売れ方につながります。本屋大賞、芥川賞、直木賞、異色の新井賞の受賞があれば一気に販売は伸びます。 三省堂のカリスマ書店員、新井見枝香さんは、ご自分の好みで勝手に「新井賞」として書店の棚に並べたら、これが評判になって売上げを伸ばした例もあります。
 
 著者が無名でも売れる本は売れる例としては、共同文化社のロングセラー『慟哭の谷』があります。慟哭の谷は1992年に初版刊行、以来20数年売れ続けています。現在7刷でトータル10000冊を超えます。2015年に文藝春秋の文春文庫版が出たため共同文化社本の勢いは落ちましたが、それまでは宣伝をしなくても年間200冊くらいは売れていました。熊の事件があったり、テレビで熊野事件の特集が組まれるたびに売れています。共同文化社の本で昨年一番売れたのは『ほっかいどう山楽紀行』です。

 自分が出版したいと思ったときに気をつける事を挙げてみます。まず、自分がどういう意図でどういう出版をしたいか明確にする必要があります。そうしなければ自分の希望を編集者に伝えることができません。読者にもわかってもらえない事になります。アドバイスを得る機会も逸します。この本を誰に読んでもらいたいのか。広く一般には、結果的には誰にも読まれない事になります。ベストセラーを狙うのでなければ、対象者は絞った方が確実に売れます。例としては藤女子大学の『多様性を活かす教育を考える七つのヒント』を『居場所のない子どもたちへ』として出版してほぼ完売となりました。
 
 出版社を選ぶ事も大切です。出版社にはそれぞれ得意不得意があります。郷土史に強い、とか印刷の色に定評があるとか色々です。自分の意図したことを本の形にしてくれる出版社か、販売力はあるか、作っただけで終わりになるのか、制作費用は妥当か、等と検討項目は多々あります。何社かに持ち込んで相見積もりを取ってみるのもよいでしょう。 

 著者と編集者の相性も大事な点です。人間なので相性の合う、合わないがあります。相性がマッチすれば相乗効果でコンテンツがよくなります。逆に合わないと満足のいく本作りにつながらない事にもなります。著者と編集者(出版社)が対等な関係が保てることが大事です。お金を出しているから自分は立場が上、とか編集者はプロであるから著者は言う事を聞いて当然、というのでは良い本はできません。編集者が自分の意図を汲んでくれようとしているか、適切なアドバイスがもらえるか、が重要です。文芸的なものは比較的得意だが科学系はダメと思っていても、編集者と最初は合わないと感じていても、本作りにかける情熱が双方にあれば乗り越えられることもあります。

 まとめますと、〇編集者の言いなりにならず、希望をはっきり伝える、〇編集者は出版のプロなのだからと編集者の言いなりにならない、〇自分が何をしたかったのかブレない。例えば、表紙案等でも、どっちでもいい、自分では決められないと人任せにしない。ただし、アドバイスに聞く耳は必要です。

 予算と出来上がりを見極める事にも留意しましょう。予算が潤沢にあれば自由度は高くなります。例えば、予算があれば校正のプロを雇って原稿の不備を補う事もできます。プロカメラマンの写真を表紙に使うとか、カバーに高い用紙を使って見栄えをよくする事もできます。上製本にしたり、ケース入りにする事も考えられます。しかし、予算には限りがあります。どこにお金をかけてどこを節約するか。例えば、内容に大きな違いがなければページ数を減らすのも手です。
    
 売るためにはどんな工夫が必要かの話もしておきたいと思います。作っただけで満足では本がかわいそうです。やはり他の人に読んでもらわなければ意味がありません。書店に並べたからといって売れるわけではありません。タイトルや情報発信が大事です。マスコミの利用も考えられます。最近の例を紹介しますと、 歌集『栴檀の木』は紀伊国屋札幌本店、丸善&ジュンク堂とアマゾンのみで市販で、450冊中、流通は50冊、一つの記事が出たことで10冊を超える直接注文がありました。書店からの追加注文もあり、ほぼ完売しました。

 受賞後に反響が大きかった例としては『占領下の児童出版物とGHQの検閲』があります。必要であれば高くても売れます。ただし、限られた部数をどう必要な人に届けるか?この例では著者が各学会、多方面に書籍を寄贈しました。その後2017年、第38回日本出版学会賞受賞につながりました。出版研究の分野において学術的な貢献を果たした評価を得ています。著者がメリーランド大学客員研究員として同文庫の書誌的整理・目録化の作業に直接従事した経験を活かし、膨大な量の一次資料を分析しています。そうした作業によってもたらされた本書は、文字通りの労作です。占領下におけるGHQの児童出版物に対する検閲の実態を明らかにした。また、本書における分析は、検閲を「する側」だけにとどまらず、「される側」である出版社側の動向についても詳らかにしています。とりわけ、自主規制によって改変された作品に関して、占領が終わった後になっても作品を改変したことが公表されず、作品の復元も行われなかったという事例は、単なる史実の提示にとどまらず、出版倫理上の問題提起としても重要な意味を持つものです。じわじわと現在も売れ続けており、完売の見通しで、今年、更なる受賞の知らせがありました。第53回日本保育学会保育学文献賞受賞で、今年の5月授賞式が予定されています。

 最後に長江さんが長年編集者としてかかわって来た爪句豆本シリーズの変遷についての紹介がありました。

 出席者は5名でした。

講義中の長江さんA.jpg
(講義中の長江さん)

慟哭の谷A.jpg
(共同文化社のロングセラー『慟哭の谷』)

『占領下の児童出版物とGHQの検閲』.JPG
(『占領下の児童出版物とGHQの検閲』の新聞報道)

3・15(その3)交差する 苦労とし甲斐 本作りA.jpg
(講義風景、ここをクリックするとパノラマ写真
posted by esre at 15:42| Comment(0) | TrackBack(0) | eシルクロード大学
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